アートと文藝のCafe

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妻から嫌われる本当の理由

 今、「コロナ離婚」という言葉が巷でささやかれている。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅勤務を余儀なくされた旦那さんがずっと家にいるようになると、まず奥さんにストレスがかかる。それによって不和が生じ、最後は「離婚!」となるわけだ。  

 

 それに近いことが各家庭で起こったのは、だいたい10年ほど前。
 団塊世代の旦那さんがいっせいに定年退職を迎えることになったときだ。

 

 その頃、
 「俺、ほんとうは妻に嫌われていたんだ」
 と気づく旦那さんが急増した。 

  

 確かに、キッチンに立っている奥様に対し、
 「メシはまだか?」と叫んでも許されるのは、ご主人がまだ会社に行っていたからである。

 

 しかし、家で1日中ぶらぶらするだけの退職後の旦那を見ると、
 「たまには、自分でご飯ぐらい作ってよ !」
 と、ブチ切れる奥さんが出てきても、仕方がない気がする。

  
 そんなとき、奥様を怒らせない方法が一つだけある。
 奴隷のように(?)かしずくことである。

 

 私などは、そうやって、なんとか定年退職後の奥様の怒りをなだめて生きてきたが、ひとたび事件が起こると、そうはいかなくなる。

 

 昔、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という病気がもとで、10日ほど通院しながら自宅療養したときのことだった。

 

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 「絶対安静」といわれたくらいだから、病院から帰ると、足を台の上に載せて水平を保ったまま、居間でテレビなんかを見ていた。

 

 カミさんが、コトコト包丁で大根を切って、夕食の支度を始める。
 
 「あ、大根おろしなら、オレがおろそうか?」
 「いいのよ、あなたは動かなくて。そのままにしていらっしゃい。好きなテレビを観ていていいから」

 

 優しい!
 「やっぱり心配してくれるカミさんを持って幸せだな。夫婦っていいな」
 そうしみじみとした気分になる。

 

 2日目ぐらいになると、多少、日常性が復帰する。
 
 「あのぉ …… 。いま観ているテレビ、どうしても見たいものなの? 私、これから始まる女子フィギアスケートを見たいのだけれど。
 どうしても、それを見たいのなら、私、がまんするから」

  
 という感じで、かすかに あたかも、コップの中にインクを一滴垂らすぐらいの感じで、いつもの二人の関係が復活してくる。

 

 3日目ぐらいになると、
 「病院の先生は、ほんとうに10日の安静が必要だと言ったの? それならしょうがないけど。でも、運動不足でまたお腹が出てしまうわねぇ」

 

 ちょっとだけ “トゲ”  かすかなトゲが、チラチラと言葉のはしはしに見えてくる。

 

 4日目。
 「ちょっとそこ掃除したいんだけど。手伝えなんて無茶なことはいわないから、廊下に椅子を持ち出して座っているか、階段に腰掛けて待機するか、どちらかにしてちょうだい」

 はっきりと「じゃま!」というメッセージが送られてくる。

 

 5日目。
 「ああ、疲れた。今日であなたの朝・昼・晩のメニューを5日も作ったのよねぇ。今日はもうアイデアが尽きたから、何が食べたいのか、もう自分で決めて」 

 

 「わかった、わかった。疲れているのなら、少し肩など揉んでやるよ。右左、どっちが凝ってんだ?」

 「病人にそんなことさせられるわけがないでしょ。でも、やるんだったら右から」
 
 完全に日常性が復帰。
 いつもの奴隷生活が始まるわけだ。

 

 要するに、“動かない旦那” の姿を見ることは、奥さんにとって最大のイライラの原因となるようだ。

 

 「妻に嫌われる」
 ということは、旦那の身体が動かなくってしまったときには、もう避けられない。
 これには、例外がない。

 

 優しい気づかいさえあれば妻の機嫌を損なうことはない っていうのは旦那が家事の分担を引き受けられる身体機能があったればこそ。
 「気づかい」を身体で示して、ようやく納得してもらえるのだ。
 
 おのおの方、くれぐれも、日頃の身体のケアを怠らないように。